スターゲイザー OBVERSE-SIDE 
 第2話 雨の日の出会いと突然の来訪者 
 アキラが目を覚まし、体を伸ばす。昨日の晩にゲームをやっていたのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。
「たまには一人で起きるのもいいもんだな」
 いつもユウトに起こされているアキラにとって、自分から起きるというのは久しぶりのことだ。だが時計の針は11時を指していて、お世辞にも早いとは言えない時間だったのだが。
 寝癖をとかして階下に降りると、レイジがいつも通り新聞を読んでいた。
「おはよう、親父」
「今はおはようじゃなくて、こんにちはだぞ」
「目覚めたときの挨拶は、どんなときでもおはようが基本だ」
 アキラがそう言うと、レイジが呆れたように新聞に視線を戻した。
「親父はもう飯食った?」
「当たり前だ。もう11時だぞ」
「へいへい。じゃ、どっかで食って来る」
 アキラはそう言って外に出た。雨が降りそうな天気だったのでアキラは一応傘を持って、いつもの食堂に足を向けたのだった。


 食堂内は昼前ということもあり、客の数はあまり多くなかった。
「おっちゃん、カツ丼一つ」
「あいよ。ところでユウト君は一緒じゃないのか?」
 アキラの注文を取りつつ、食堂の主人・平松は怪訝な顔をして尋ねた。
「ユウトなら今日は午後からの出勤だけど…」
「お、じゃあ仕事を一つ片付けたってことだな?」
「まあな」
 アキラがそう言うと、平松は嬉しそうな顔をした。
「そうかそうか。お疲れさん。これからも頑張りな」
 平松はアキラに労いの言葉をかけると、厨房へと戻っていった。


「はいお待ち」
 頼んでから5分もしない内に、カツ丼が届けられた。
「おっちゃん、いくらなんでも早過ぎないか?」
「ふっ、おじさんも修業を重ねた結果、調理スピードが神の域に達したのだよ」
「なら、どうして視線を反らす? 俺の目を見て喋れ」
「…すまん。実はそれ、前の客の注文取り違えて作ったやつなんだ」
 アキラが問い詰めると、平松は観念したように白状した。
「こんなの客に出すなよ」
「大丈夫。できてから10分くらいしか経ってないし、レンジで温めたからホカホカだ」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
 思わずツッコミを入れたアキラの耳元に平松はそっと口を寄せた。
「3割引きでどうだ?」
「む?」
 ピクリと反応したアキラに平松は更に追い討ちをかける。
「カツを2切れ追加しよう」
 アキラと平松は無言で握手を交わした。商談成立である。
 こうして、平松の注文の取り違えで捨てられる予定だったカツ丼は、無事にアキラの腹の中に収められたのだった。


「うわー、降ってきたよ」
 アキラが店を出ると、外は土砂降りになっていた。アキラは持って来た傘をさして、早足で事務所へ向かった。
「傘持ってない奴多いな」
 アキラは前方から走って来る男を見ながら呟いた。予報では降る確率は低かったので、傘を持って来なかったのだろう。傘を持っていない人たちは、どこか雨宿りできる場所を探して懸命に走っていた。
 道を行き交う人たちを観察していたアキラは、ある少女に目を留めた。歳は10歳ぐらいであろうその少女は傘を持っていないのに雨で濡れているにも拘わらず、ただゆっくりと歩いていた。
「そこの少女。急いだ方が良くないか? 濡れるぞ」
 アキラが少女に話しかけると、少女は驚いたようにアキラを見た。
「ええ、急ぎたいのはやまやまなんですけど、足を怪我しちゃって」
 よく見ると少女は足を引きずるようにして歩いていた。
「大丈夫か? 送ってやってもいいが?」
 アキラが親切心からそう言うと、少女は首を横に振った。
「気にしないで下さい。大丈夫ですから」
 それじゃ、と言って少女は再び歩き出した。するとアキラは持っていた傘を少女に差し出した。
「これやるよ。ささないよりはマシだろ?」
「でも…」
「いいから。人の好意は素直に受け取っとけ」
 そう言って半ば強引に傘を押し付けたアキラは事務所まで全力で走ったのだった。


「た、ただいまぁ」
「おかえり、ずいぶん濡れたな」
 出勤していたユウトは、全身ずぶ濡れのアキラにタオルを手渡した。
「風呂沸かしておいたから入ってきたら?」
 ユウトに促され、アキラはすごすごと浴室へと向かったのだった。


 アキラが風呂からあがったところで早速二人は店のパソコンを使って、次の依頼探しを開始した。
「アキラ、なんかあった?」
「ぜーんぜん」
 協会が受注した依頼を確認していくものの、さっきからこんな感じで手頃な依頼がなかなか見つからない。今日は諦めようと二人が思いかけたとき、不意に店のドアが開いた。
「こんにちは〜。おじさんいる?」
 そう言って一人の少女が事務所に入ってきた。
「ア、アズサ?」
「あ、ユウトとアキラ。久しぶりだね。ところでおじさんは?」
「親父なら2階の物置漁ってるぞ」
「そう。じゃあお邪魔しまーす」
 アズサと呼ばれた少女は、レイジのいる2階へ昇っていた。
「何の用だろう?」
「さあな」
 思わぬ来訪者に、ユウトとアキラはお互い顔を見合わせたのだった。
    REVERSE-SIDE 第2話   ≫ 
 戻る   Copyright(C) 2008 佐倉ユキ All right reserved